随筆

東忠の坂をのぼって(その八)

錦鯉
 東忠の十代目の店主である東さんには、今でも時々お会いして、東忠についていろいろと教えていただいたり、お話を伺ったりしています。
 先日伺ったお話で面白かったのは、その昔「水仙」の間には、お庭に向かって張り出すように広い縁側(ぬれ縁)があったとのこと。そして、お天気の良い日には、縁側にお客様がお出になり、お酒を飲んだり、お料理を食べたりすることができたとのことでした。まるで、京都貴船の川床や、鴨川の床みたいで良いですね。
 なお、お客様の中には、酔っ払った勢いで縁側からお庭に降り、池の鯉といっしょに泳いだ…なんて方もいらしたのだとか!?
 そして先日、そのお客様が久しぶりに東忠にご来館になり、私くしは初めてお目にかかりました。ご挨拶をして、お名刺も頂戴し、「先代からお名前は伺っております…」と言いながらも、「池の鯉といっしょに泳ぎになったとか…」の一言は、心の中に閉まっておきました。

*この随筆は、小千谷新聞の2024年11月30日号に掲載されたものです。